Nature Communications誌2021年Top 25 Articles(生命科学分野)に農学研究院 増田教授ら研究グループの論文(研究成果)が選ばれました

 昨年(令和3年)12月に農学部ホームページのトピックスでお知らせしました研究成果(https://www.agr.hokudai.ac.jp/i/topic/7769)が「Nature Communications」誌の2021年Top 25 Articles(生命科学分野)に選ばれました。

 「Nature Communications」は「Nature」のオープンアクセスジャーナルのフラッグ誌で、自然科学のすべての分野の研究を対象としています。増田教授ら研究グループの論文の内容は以下の通りです。


アブラムシを引き寄せ,翅を生やして自らを運ばせるRNAがいた!
~植物ウイルスに寄生するY-サテライトRNA分子の驚くべき生き残り戦略の解明~

【概要】

 植物にもウイルス病はある。キュウリモザイクウイルス(CMV)にサテライトRNAと呼ばれる短い「寄生RNA」が存在する。YサテライトRNA(Y-sat)はCMV粒子の中に潜み、タバコに感染すると感染植物は鮮やかに黄化する。不思議なことに、Y-satは日本でしか発見されていない。この黄化タバコでは光合成がそれほど損傷を受けずに、むしろCMVによる病気が軽減するので、感染タバコは意外と元気に見える。おもしろいことに、この黄色に引きつけられてアブラムシが周囲から集まってくる。

 実は、CMVはアブラムシによって伝搬されるため、CMVに付随するY-satも都合よくアブラムシによって周囲に拡散する。しかし、Y-satの仕掛けはこれだけではない。感染タバコ上で汁液を吸ったアブラムシは、数日でいったん赤くなり、その後どんどん翅をつけた個体が出現してくる。Y-satは、アブラムシの翅形成に関わる遺伝子群を直接制御していたのである。つまり、アブラムシはY-satによって周囲へ脱出するためのプライベートジェットに変えられたと言える。

 「Y-satの驚くべき生き残り戦略」を暴いたこの基礎研究は、SDGs時代の新農薬開発にもヒントを与える。たかが短いRNA分子がアブラムシに翅形成を誘導できたのである。人間は、その反対にアブラムシが翅を形成できないように細工した「RNA農薬」をきっと開発できるであろう。翅が形成できなければ、アブラムシは今いる植物から脱出できないため、我々はウイルス病の周囲への伝搬を回避できるのである。


 なお、本研究成果は本ホームページのほか、北海道大学社会共創部広報課からプレスリリースされ、北海道大学ホームページにも掲載されております。(https://www.hokudai.ac.jp/news/2021/12/rnay-rna.html