農学部長・農学院長・農学研究院長 西邑 隆徳

Boys, be ambitious.
札幌農学校の初代教頭・ウィリアム・スミス・クラーク博士が札幌を去る際に学生たちに残した言葉です。

 札幌農学校は北海道開拓に従事する人材育成を目的として1876年に設立され、近代的大学としての農学教育の礎となりました。その後、東北帝国大学農科大学、北海道帝国大学、そして現在の北海道大学へと発展しました。この間、北海道大学における農学教育研究は多くの優秀な人材を輩出し、食料生産技術の革新による農業の発展に大きく貢献してきました。

 現在の世界人口は73億人ですが、2050年には97億人に、2100年には112億人に達すると予測されています。気候変動と地球の温暖化は食料生産環境に大きな影響をもたらし、食料の生産と分配における地域不均衡は地球全体の社会問題となっています。地球上の限られた資源の中で人類が生存していくためには食料の持続的生産技術の確立が重要ですが、食料生産技術の革新だけでは世界の食料問題を解決することはできません。人類の生存基盤が急激に揺らぎ始めている今、これまでの農学の概念や学問領域に囚われない自由な発想で挑戦的な農学研究を展開していくことが必要です。

 私たちは農学研究院・農学院・農学部の目指す理念を「生物圏に立脚した生存基盤の確立を通して人類の持続的繁栄に貢献する」と定めています。この理念を実装するために4つの重点研究領域を設定しています。「食料生産」、「環境」、「食品製造・流通・利用」、これらを支える土台としての「基礎生物科学」です。各研究領域は独立したものではなく、相互作用しながら融合することで新たな農学研究が展開されることが期待されます。現在、農学部は、生物資源科学、応用生命科学、生物機能化学、森林科学、畜産科学、生物環境工学、および農業経済学の7つの学科から構成されています。また、農学院は、これまでの4専攻15講座制から1専攻3フロンティアコース制へ改組し、今年度から新農学院が発足しました。農学部・農学院では、より俯瞰的で多面的な教育研究を推進し、食料・資源・エネルギー・環境に関する地球規模の問題解決と地域の農林業およびその関連産業の持続的発展に貢献できる知識と技術を有する多様な人材を育成することを目的としています。

 近年、農業・食品分野の技術革新は目覚しいものがあります。IoTやAI、ゲノム編集などの新技術を社会実装したスマート農業の発展が期待されています。しかし、一つの技術革新がもたらす影響をその広がりと時間軸の中で私たちは注意深く思慮しなければなりません。生物と環境、人と社会、地域と地球全体を俯瞰する広い視野を持ちながら深く考え行動する力が求められています。私たちは、農学部・農学院・農学研究院における教育研究活動を通して、食料・資源・エネルギー・環境に関する地球規模の問題を解決し、生物圏に立脚した生存基盤を確立することで、人類の持続的繁栄に貢献することを目指します。

 冒頭に述べたクラーク博士の言葉”Boys, be ambitious.”には続く言葉があります。
Boys, be ambitious. Like this old man. Be ambitious not for money or for selfish aggrandizement, not for that evanescent thing which men call fame. Be ambitious for the attainment of all that a man ought to be.
少年よ大志を抱け。この老人(私)の如く。お金や私欲、儚き名声のためではなく、人として為すべきことのために、大志を抱け。