農学研究院 加藤 英介 准教授(食品機能化学研究室)

背景・目的

 全身に張り巡らされている血管は、酸素や栄養素など細胞が必要とする分子を届けるほか、ホルモンなど様々な分子をやり取りするための経路ともなっている。血管は、こうした様々な分子を体の末端まで送り届けるために分子の透過性を適度に調節している。
 加齢による体の老化によって、血管の透過性を制御する機能も徐々に低下していく。老化した血管では、分子の透過性が上昇しており、いわば血管からの「漏れ」が生じている状態となる1。このような血管からの「漏れ」は、炎症を誘導し、体に様々な不調を生じさせる一因となる(図1)。また、がん、心疾患、慢性炎症、糖尿病、喘息、浮腫など各種疾患でも血管透過性の上昇が見られ、症状に関連していると考えられる2。したがって、血管の透過性を制御して血管機能を維持することは、ヒトの健康維持に重要な点である。
 このように重要な血管の機能を食事によってサポートすることできれば、病気の予防や健康寿命の延長など、健康維持に役立つことが期待できる。本プロジェクトでは、血管の機能を向上する機能性食品の開発を目的としている*。

図1 血管の透過性と健康:加齢や疾患により血管の透過性が上昇すると炎症などが起こり、体の不調の原因となる。

研究構想

 血管機能の維持に重要なタンパク質として、受容体型チロシンキナーゼであるTie2がある。Tie2は、⾎管内⽪細胞で働いており、内生のリガンドであるアンジオポエチン-1により活性化されて、内皮細胞同士の接着や、内皮細胞を覆って血管構造を補強する壁細胞との接着を増強する働きを持つ(図2)2。このようなTie2の働きは、血管透過性を低下させ、血管からの「漏れ」を抑制するため血管機能の向上に寄与する。本プロジェクトでは、このような構想の下、Tie2に作用する食品の探索、その食品に含まれる機能性成分の解明、さらに機能性成分が血管内皮細胞に及ぼす影響の解析、などを行っている。

図2. Tie2の働き:血管内皮細胞に存在するTie2は、アンジオポエチン-1により活性化されて細胞間接着を向上し、壁細胞を誘引する。

期待される成果

 高齢化が進展している日本では、健康寿命の延長が大きな課題となっている。ヒトの健康にとって重要な血管機能が加齢に伴い低下することから、血管機能を保つ食品は加齢による影響を軽減し、健康寿命を延長する効果が期待できる。また、各種疾患でも血管機能の低下が見られることから、そうした疾患の症状に対する効果も期待できる。

 

参考文献

(1)美加澤根; 大田正弘; 山西治代; 本山晃; 高倉伸幸; 加治屋健太朗.
 皮膚老化において重要な役割を担う血管・リンパ管. 日本化粧品技術者会誌 2012, 46 (3), 188–196.

(2)福原茂朋. 血管透過性のダイナミックかつ巧妙な制御を可能にするシグナル伝達系. 
 生化学 2017, 89 (3), 368–376. https://doi.org/10.14952/SEIKAGAKU.2017.890368.

リンク

*本プロジェクトは、キューサイ株式会社との共同研究により行われております。