農学研究院 小出 陽平 准教授(植物育種学研究室)

研究の背景と目的

 人類は長い時間をかけて、現在、我々が利用している様々な作物を作り上げてきました。しかし、作物の改良には終わりはありません。将来の予測不可能な環境に対応するためには、様々な環境に適応する新しい作物を開発し続けなければならないのです。

 私たち日本人の主食はお米(イネ)であり、イネは多くの日本人にとって馴染みの深い作物です。一方、イネに、別の種(しゅ)の仲間がいることをご存知の方は少ないと思います。このプロジェクトでは、イネの仲間の内、アフリカで生まれた、アフリカイネという種を用いて研究を行っています。

 アフリカイネは、アジアで栽培されているイネが持たない、高温耐性や乾燥ストレス耐性、病害虫抵抗性などの有用な形質を持つと考えられています。しかし、アフリカイネに関する研究はまだまだ少なく、どのような遺伝子が、アフリカイネの有用な形質に関わっているかは不明です。また、アフリカイネとアジアイネを交配すると、雑種の種子が実らない、雑種不稔という問題も生じます。

 このプロジェクトでは、多数のアフリカイネ系統を実際に栽培し、有用な形質に関わる遺伝子領域を明らかにすることを目的としています。また、アジアイネとアフリカイネの雑種不稔を引き起こす遺伝子を特定して、雑種不稔性を回避する手法の開発を目指しています。

研究内容

1.アフリカイネの初期生育性に関する多様性評価と遺伝子型との関連
 アフリカイネの特徴の一つに、アジアのイネと比べて初期生育が旺盛であるという特徴があります(図1)。この旺盛な初期生育に関わる遺伝子を明らかにすることで、アジアのイネのさらなる改良ができるはずです。本研究では、150以上アフリカイネ系統群の初期生育性を調べ、遺伝子型との関係を解析しています。

図1. アフリカイネとアジアイネの初期生育性の違い

2.アフリカイネとアジアイネの雑種不稔性に関する研究
 我々は、これまで、アフリカイネとアジアのイネの雑種不稔性に関わるS1遺伝子に着目した研究を行い、関与するタンパク質の解明と、突然変異による遺伝子改変を行ってきました(Koide et al. 2018 PNAS 図2)。このプロジェクトでは、これまでの知見を利用して、アフリカイネとアジアのイネの雑種不稔に関わる他の遺伝子座の同定を行っています。

図2.アジアイネとアフリカイネの雑種不稔性                      アジアイネ(上)とアフリカイネ(下)は種子が実りますが、雑種(中)は種子が実りません。