科研費・基盤研究A (2019〜2021年度)

農学研究院 信濃 卓郎 教授(作物栄養学研究室)

 植物は土壌中で土壌に対して、直接的あるいはまた間接的に様々な影響を与えて、複雑な相互関係を構築しています。この関係性が最も発揮されるのが、根圏であると考えられますが、土壌中での正確な場所を把握することは困難でした。私達は半減期が約20分と短い放射性炭素(11C)を利用し、さらにその放射線をライブに二次元的に捉えることにより、土壌に根が分泌物を通して直接的に働きかけている領域を特定することを可能にしました。この領域を対象として、土壌の物理化学性、微生物や根の生理的な変動を解析すると、通常植物が利用できないような形態の元素の可溶化が促進したり、微生物の機能性の変化が明らかになってきました。

 実際の試験では図のようなライブイメージング画像に基づいて(左図は根への分布、右図は土壌への分布。赤色が濃いほど放射能が大きいことを示す。根への分布の強弱パターンと根分泌物の分布の強弱パターンが一致していないことがわかる。)、根や土壌をコンパートメントに分けて、それぞれのコンパートメントに含まれている根や土壌の分析を行います。この手法を用いることで、根からの分泌が盛んな領域では、いくつかの元素(例えば、セシウム、マンガン、鉄など)の土壌溶液中の濃度が周辺の領域より高まったり、微生物群集構造が大きく変動したりする事を明らかにすることができました。現在はそれぞれの領域での植物の根の遺伝子機能の変動解析と土壌微生物の機能性遺伝子の変動解析を同時に進めており、生物(植物、微生物)と非生物(土壌)の間の密接な相互関係を明らかにすることを目指しています。

 この研究の一部はすでに論文化(Yin et al. 2020)されている他、NHK Worldにも土壌に炭素を放出する仕組みとして紹介されました(NHK World Prime 2022)。また、根への放射性炭素の移動の様子はYoutubeに公開しています。

研究成果

・Yin Y-G. et al. 2020: Visualising spatio-temporal distribution of assimilated carbon translocation and release in root systems of leguminous plants. Scientific Reports doi: 10.1038/s41598-020-65668-9

・NHK World Prime 2022: Carbon Farming – A Climate Solution Under Our Feet- https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/ondemand/video/3016116/

・根への放射性炭素移動の様子:https://youtu.be/J9OEBf-Hfmw