内閣府が主導する「ムーンショット型研究開発制度」* に採択された課題を紹介します。

*我が国発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来の延長にない、
より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発

本プロジェクトの公式サイト

名誉教授 小林 泰男 

研究の背景

 近年、温室効果ガスによる地球温暖化が深刻化し、その削減が急務となっています。また、世界人口の増加と開発途上国の経済成長等に伴い、2050年の畜産物需要量は2010年の1.8倍になることが見込まれており、このままでは世界的な畜産物の需要に対応できない事態が予想されています。

 本プロジェクトでは、牛のげっぷで排出されるメタンを80%削減し、温暖化抑止をはかるとともに、牛の乳肉生産効率を10%向上させます。同時にこれまで飼料に用いていた穀物を人類に回せる家畜生産システムを構築し、世界展開をはかることで、食糧危機回避に貢献します。

研究内容

 牛のルーメン(第1胃)では、多種多様な微生物の働き(飼料の分解・発酵)により牛のエネルギー源(VFA)が作られています。

 その際、同時に生成されるメタンガスが「げっぷ」として大気中へ放出されることで、地球温暖化を導くことに加え、牛のエネルギー源となるべき飼料エネルギーの損失を導きます。

 私たちは、飼料と微生物群の働き(分解・発酵)をコントロールすることでげっぷ由来のメタンを削減し、温暖化軽減をはかるとともに、飼料エネルギーの有効利用(乳肉生産増)を導く、新たな家畜生産システムの開発に挑戦します。

研究手法

  • ルーメン(第1胃)に共生する微生物群(マイクロバイオーム)機能を解き明かし、メタン抑制とプロピオン酸(ウシのエネルギー源)の増強に関与する微生物を特定します。【すでに新規微生物の特定・分離培養化に成功!】
  • プロピオン酸増強やメタン抑制を導く機能性素材を見出し、製剤化することで給与効果の実証を行います【すでに素材特定し給与試験で検証中!】。                  
  • VFAセンサとデータ送信システムを格納したスマートピルを開発し、牛のルーメン内に留置することで、発酵動態をリアルタイムでモニタリングすることを可能にします【すでにセンサ関連で3件の特許取得!】。
  • 一連のルーメン発酵動態情報、メタンの連続推定データなどをAI解析に供し、牛個体別の精密飼養管理システムを開発します。

期待される成果

 ルーメン内の微生物群(マイクロバイオーム)の生態と機能を制御できる最適飼養法を「個体別飼養管理システム」として確立します。すなわち、それぞれの牛に適したメタン抑制飼料の種類と量、その他の飼料との組み合わせ、それらの給与タイミングを明らかとしたうえで、未来型の給餌プログラムの提案→自動給餌機への反映で対処します。本システムの拡大普及により、メタン削減と生産性向上の世界的展開をはかり、人類の食料危機回避に貢献します。

  • 共同研究機関
    農業・食品産業技術総合研究機構 / 物質・材料研究機構 / 東京大学 / 名古屋大学 /
    JA全農 / 産業技術総合研究所 / 帯広畜産大学 / 北海道立総合研究機構
  • 協力機関
    日本科学飼料協会 / (株)扶桑コーポレーション