環境研究総合推進費(JPMEERF20184005)
令和4年3月31日終了

農学研究院 中村 太士 教授(生態系管理学研究室)

研究の背景と目的

 日本において、自然環境の保全と管理の未来像を描くうえで考慮しなければならない最も重要な要因は、人口減少に伴う土地利用変化と気候変動です。グリーンインフラ(GI)とは、自然が持つ多様な機能を賢く利用することで、持続可能な社会と経済の発展に寄与するインフラや土地利用計画のことです。GIは、既存インフラ(多くはコンクリートを使うため、グレーインフラと呼ばれている)と比べ、防災面において不確実性を内包し、また、両者は生物多様性保全や生態系サービスにも大きな違いがあると考えられます。両者を効果的に融合したハイブリッドインフラ(HBI)は、今後重要な役割を担っていく可能性があります。そこで、GIならびにHBIの機能を防災、環境、さらには社会経済的に評価すること研究目的としました。

研究の内容

 本プロジェクトでは4つのサブテーマを設定しました。

①防潮堤、自然・人工砂丘、海岸林(高潮・津波)や水田(洪水)を活用したHBIの工学的・力学的評価を実施し、多面的機能との相乗効果を発揮するための土地利用とガバナンスのあり方を提言しました。

②生物多様性の観点から釧路湿原のHBIとしての効果を水文学および環境経済学的アプローチから明らかにし、既存のインフラ(遊水地・防潮堤)や生態系(河跡湖)が有する生物多様性保全機能、生態系の連続性を評価しました。

③GIの不確実性を考慮したGIならびにHBI防災経済モデルを構築し、防災効果の不確実性に対する市民評価をアンケートによって分析しました。

④実証地域や国内外のHBI に関わる事例を分析することで、HBIの実現に必要となる社会経済、および地域環境に関する情報を整理し、全国的なHBIのポテンシャルを捉える枠組みを検討しました。

研究成果及び環境政策等への貢献

①海岸堤防と砂丘・松林による減災効果は、高潮・津波の想定規模によって異なり、相補的に機能することこと、また洪水に対しては氾濫水の多くを水田が受けとめ住宅被害が緩和されること、そして土地利用・ガバナンスを検討することでさらなる被害軽減が可能になることが明らかになりました。

②釧路湿原によって、現在の大雨時の河川ピーク流量が約20%低下(図1)、将来の気候変動下でも約30%低下させる効果があること、またGIへの認知度は十分でなく、理解が進めばGIへの全般的評価が高くなる可能性があることが明らかになりました。さらに、遊水地や河跡湖は高い生物多様性保全機能を有し(図2)、防潮堤についても覆砂による植物の生育基盤を用意するだけで、海浜植物が定着できることを実証しました。

③水文経済モデルを構築し、グレーインフラとGIの最適な構成比を検討しました。選択型実験を用いた分析の結果、防災効果と不確実性に対する選好は個人差があり、グレーインフラを重視する住民とGIを好む住民が混在することから、地域住民の合意形成が難しいことが示されました。

④自然環境ならびに社会体制の指標を使って、自治体のHBI導入ポテンシャルを評価した結果、農地GI事業は、凹地水田の割合が高く、自治体の認知や関連計画が充実しており、一定の財政力のある自治体で導入しやすいことが明らかになりました。

 これらの成果を、内閣府特命担当大臣(防災)武田良太氏と環境大臣小泉進次郎氏との意見交換会(2020年3月24日に実施)で説明し、「適応復興」という新たな考え方につながり、「地域適応コンソーシアム事業成果集」にも紹介されました。

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プロジェクト内容の詳細

プロジェクト内容に関する本