1.高品質・高収量水田自然農法の研究

健康な土から,健康な作物が育ち,健康な作物が人の健康を支えます.肥沃で健康な土から育った作物は,食味も良く,栄養価が高い.しかし,農薬と化学肥料の多投を基本とする現代農業は,作物の単収を増加させ,世界の食料供給を支えているものの,土壌劣化を招き,病弱で栄養価に劣る作物を生産しています.更に,農村地域の多様な生物を激減させ,地球規模の環境破壊をもたらしています.人類が,今後も自然の豊かな恵みを享受して持続的に健康に生存するためには,健全な物質循環と生物多様性の上に農業を営むことが不可欠です.近年の健康科学の発展により,人の健康が,大量で多様な腸内細菌との共生関係で維持されていることが明らかとなりました.それと同様に,土壌科学は,植物の健康が,土の多様な微生物との共生関係で維持されることを明らかにしつつあります.農薬と化学肥料の多投は,土壌微生物と作物の健全な共生関係を破壊します.農法の根本的な変革が必要です.人口の増大した人類に食料を供給するためには,単収も現代農業と同等以上にする必要があります.本研究では,無農薬無肥料で中耕除草を多数回行い,稲と多様な生物の良好な共生関係を活用して,自然の養分循環を効率的に利用する水田農法により,高品質・高収量米を生産する方法を確立し,健全な物質循環と生物多様性を回復することを課題としています.

  1. 水田における窒素・リン・有機物の動態と稲の生育
    田植え後から40日ほどの間に,株間を除草しながら耕す作業を,中耕除草と言います.江戸時代から,中耕除草を多数回行うと収量が増えることが知られています.無農薬無肥料の中耕除草を行った区と慣行区(農薬と化学肥料使用)の窒素・リン・有機物の量とその変化を比較し,稲の生育との関係を明らかにします.
  2. 水田における微生物活動,生態調査と土の健康
    水田の微生物活動,生物の調査を共同研究で行って,養分動態,酸化還元電位,pH等の測定結果と合わせて,稲の品質・収量と多様な生物とのつながりや土の健康を研究します.

2.農地土壌の保全整備

持続的で,自然の豊かな恵みをもたらす農地土壌を保全整備する方法について研究します。特に,作物生育,品質と土壌物理性,物質循環,水循環の視点から,農地での丹念な測定を積み重ねて技術的対策を明らかにします。また,そのために,関連する基礎研究の理論的・実験的な成果を適用します。

  1. 作物生育に適した土壌環境の創造と保全
    作物を生産する場である、水田や畑、草地における土壌は、人間の働きかけによって大きく変化します。作物栽培に適した土壌環境を維持するための管理方法について検討します。
  2. 水田における土壌改良
    水田は湛水することによって土壌肥沃度が保たれていますが、良質米を生産するためには土壌改良や水管理を含めた農作業体系の見直しが必要です。土壌中での養水分移動を考慮した改良方法について検討します。
  3. 畑地の排水改良
    畑地においては、土壌の保水性や排水性といった物理性が作物生育を支配しています。湿潤で冷涼な北海道においては、特に土壌からの排水を促すことが特に重要です。気候変化に左右されない畑地土壌のあり方について探求します。
  4. 土壌侵食抑制と化学肥料
    化学肥料が土壌構造におよぼす影響を解明し,土壌侵食抑制対策を検討します。

3.土壌を科学する

土壌は,砂や粘土などの無機物,生物由来の有機物,ヤスデやミミズなどの小動物,カビやバクテリアなどの微生物,水,空気で構成されます。このバラエティーに富むにぎやかな空間で起こっている諸現象とその中の物質の特徴を,土壌物理学,熱力学,物理化学,コロイド科学の視点から探求します。

  1. 土壌中の溶質移動
    土壌中における溶質の挙動を探求します。溶質は,土壌表面に吸着したり,土壌微生物に分解されたり,多様な作用を受けながら,土壌中を移動します。
  2. 農地土壌における理化学性の不均一性
    広がりを持った農地では、土壌理化学性の不均一により、作物生育のムラが生じています。肥料や土壌改良資材などを効率良く投入するためには、この様な土壌の不均一を明らかにする必要があります。
  3. 土壌中における吸着現象
    土壌表面への物質の吸着メカニズムを探求します。静電気力,分子間引力,疎水性相互作用など,多様な力が働きます。
  4. 土壌の分散凝集
    土壌は,水と混ざって,かたまりがバラバラに崩れたり(分散),集合したり(凝集)します。土壌の持つ荷電や分子間相互作用がどのように働いて状態が変化するのか探求します。
  5. 土壌構造と透水性
    土壌構造は,透水性を規定します。土壌構造と透水性の変化の関係を探求します。

4.土壌・水環境対策

土壌をめぐる循環の輪を,健全な状態に維持保全するための土壌・水境対策を研究します。フィールド調査や実験で得た結果を理論的に考察し,汚染物質の移動集積機構を明らかにし,浄化対策や汚染防止対策を検討します。

  1. 土壌中における汚染物質の移動集積とその対策;放射性元素・栄養塩類・洗剤等
    土壌中における汚染物質の移動集積機構を解明し,汚染対策を検討します。また,土壌の水質浄化能力を活用し,水質浄化技術を検討します。汚染土壌,特に有機汚染物質で汚染された土壌の,界面活性剤による浄化対策を検討します。
  2. 傾斜農地における土壌物質移動
    傾斜地における、水や溶質さらには土壌そのものの移動形態を解明し、安定生産に向けた土壌管理方法について検討します。


~土壌をめぐる循環の輪と農業・環境~

作物は、大気中から二酸化炭素として取り入れる炭素以外の元素は、全て土壌から吸収しています。したがって,人が摂取する元素も,土壌の成分が元になります。人の命と健康は,良い土壌の上に育った健康な作物を食べて維持されます。また,植物も動物も、死ぬと土壌生物の働きで土に返ります。地球上の多くの生命が,土壌をめぐる循環の輪の中で活動しています。しかし,近代文明は,地球規模の環境破壊をもたらし,人類の営みが,命を育む農地や土壌を傷つけ,水と大気の環境を悪化させています。人類がこれからも豊かな自然の恵みを受けていけるように,土壌をめぐる循環の輪を,健全な状態に維持保全する必要があります。土壌保全学研究室では,その基礎となる教育研究を行うため,土壌を物理学的視点から科学するとともに,健全な物質循環と自然農法の研究,作物生育に良好な土壌環境の保全整備に関する研究や,土壌・水環境対策に関する研究をしています。


発表論文・学会発表・著書 (作成中につき公開停止中)


学生

博士課程

周 之舵(2年)
朱 顔(1年)

修士課程

永濱 慎二(2年)
小林 徹平(1年)

学士課程

諸岡 世大
横田 裕章
大木 優菜
弘中 萌奈
芳澤 耀亮


住所

〒060-8589 北海道札幌市北区北9条西9丁目 北海道大学大学院農学研究院
基盤研究部門 生物環境工学分野 土壌保全学研究室

電話・FAX番号

Tel : 011-706-2565 (濱本)
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メールアドレス

shoichi*agr.hokudai.ac.jp(濱本)
kashi*agr.hokudai.ac.jp(柏木)
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