主な研究テーマ

木材細胞壁の微細構造と機能

広葉樹材の組織や細胞壁の微細構造・機能については、不明の点が多い。この問題について知見を得るため、とくに壁孔という細胞間の連絡路の微細構造を電子顕微鏡的に解明するとともに、その微細構造物が生きた立木の内部において、どのように水分通導を制御したり、水食い材形成などの一旦脱水された組織で起こる再湿現象に関与しているのかを解析している。

樹皮の構造、形成、機能

樹皮とは、樹木の幹、枝、根の中でも形成層より外側の全領域のことを言う。葉や芽で生合成された同化産物や成長調節物質の輸送、および外界から樹体内部を隔てるバリアを担う。生体維持のためにきわめて重要な組織でありながら、解剖学的研究のために取扱うのに厄介な性質があることから、構造、形成、機能に関する知見は木部組織に比べて乏しい。そのような背景から、樹皮組織の解剖学的性質や形成の仕組み、バリア機能、含有ミネラルの網羅的解析を行っている。

木材の樹種識別

北大札幌キャンパスには先史時代の遺跡が数多く埋まっており、ときに木製品が出土することがある。北海道地区の先史時代における木材利用の実相を解明するため、こうした遺跡出土材の樹種識別を行っている。また、一般に解剖学的性質に基づく木材の樹種識別は属レベルが限界と言われていたが、最近では属よりも小さい分類単位で識別が可能な事例が報告されるようになっている。そうした識別方法の開発を目的とした解剖学的研究も進めている。

樹木の環境応答機構

多年生である樹木の成長特性は季節的な環境条件(光・温度・水など)により大きく変化する。秋季の短日条件による成長停止やそれに続く越冬芽・形成層の休眠はその典型であり、多年生である樹木の特徴的な生理現象である。樹木の成長における季節応答の一例として、翌春の成長を担う越冬芽の構造、機能、休眠過程における生理現象について調べている。

樹木の耐寒性・凍結抵抗性

多年生である樹木は、秋から冬にかけて低温馴化する過程において、形態的、生理的に様々な変化を起こすことによって凍結抵抗性を向上し、厳冬期の凍結に適応する。しかも、越冬する樹木の凍結に対する適応挙動は器官・組織によって異なっている。細胞外凍結(師部や形成層、常緑葉)や深過冷却(木部)、器官外凍結(越冬芽)と、それぞれ特徴的な凍結適応機構の分子メカニズムを組織構造学的、生理・生化学的、分子生物学的なアプローチで解析している。

樹木における水の凍結制御機構

氷核細菌やヨウ化銀などの氷核物質のように凍結を促す物質が存在する一方で、深過冷却する樹木の木部柔細胞には水の凍結を妨げる(すなわち過冷却を促進する)活性物質が存在する。水の凍結を制御するには、凍結誘導(氷核形成)と凍結防止(過冷却)の双方による調節が重要である。樹木木部から単離・同定した過冷却促進活性物質の構造・機能の評価を通じて水の凍結制御機構の理解を深め、その応用・活用の可能性についても検証しつつ水の凍結制御機構の解析を試みつつ、植物の凍結保存など、応用・活用の可能性についても検証している。

樹木培養細胞を用いた二次木部細胞の分化過程の解析

木質資源の大部分は樹木の形成層から生産される二次木部細胞によって構成されている。様々な形態を持つそれらの細胞の形成機構を理解するために形成過程の詳細な解析が重要となるが、樹木の内部で起こる細胞の分化過程を一細胞で詳細に解析することは困難である。そこで、樹木の培養細胞を二次木部の道管要素や仮道管に類似した細胞に人為的に分化誘導するモデル実験系を確立し、二次木部細胞の形成過程の詳細な解析を進めている。

組織培養技術による樹木のクローン増殖系の確立

樹木の中には種子の発芽率の低さや挿し木の困難さなどから、効率的な苗木の増殖が行えないものや、それらが一因となって絶滅危惧種になっているものがある。組織培養技術を用いることで、芽などの樹木の組織の一部からクローン樹木が再生できる可能性があり、条件検討を進めている。





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北海道大学大学院農学研究院 樹木生物学研究室

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