非特定汚染源の窒素負荷の制御因子

農業は収穫とともに栄養元素を系外に持ちだすため、持続的生産には、化学肥料や堆肥の施与で失われた栄養元素を補う必要がある。このために農地は一時的に裸地状態となったり、栄養元素が高濃度に存在したりする。この時に降雨があると、河川への流出、地下水への溶脱がおこり、沿岸域に富栄養化や、飲用水を汚染するなどの問題が生じる。流域の土地利用、河畔林や湿地の状態により河川への流出が異なることが認められてきている。その支配因子を明らかにし、農業からの負荷を抑制することが本研究の目的である。

流域レベルの農地からの温室効果ガス排出のモデル化

土壌中の温室効果ガス(CO2, N2O, CH4)は炭素窒素の形態を変化させる土壌微生物反応により生成し、土壌の気相を通して拡散則に従って排出されるため、土壌の理化学性と土地利用に強く影響を受ける。流域には地形に応じた水分レジムの異なる土壌が分布し、基本的に土地利用の主要な制限因子であるが、排水改良や土層改良によりすべての土壌タイプで同一の土地利用が可能となっていることから、同じ気象条件下の同じ土地利用で土壌タイプの違いにより温室効果ガス排出が異なる場合が起こることになる。正確な温室効果ガスの排出見積もりのために土壌タイプの影響を評価した流域レベルのモデルを作成することを目的にしている。

温室効果ガス排出における堆肥施用の効果

農地は収穫により有機物が持ちだされるため、栄養元素のみならず炭素も減少する。世界では有史以来2000年までに、森林伐採や農地の開墾などの土地利用の変化により390億トンの炭素(全放出量の14%)が大気へ放出したと見積もられている。土壌炭素化合物は土壌の無機粒子を架橋し土壌構造を維持する役割も持っており、土壌炭素の減少は土壌劣化の指標でもある。しかし、これまで堆肥施与の土壌炭素の維持や増加の効果に関する研究は短期的なものにとどまっており、十分に評価されてこなかった。渦相関法、チャンバー法を用いた定量的な堆肥施与効果の評価を目的にしている。

熱帯泥炭地の土地利用変化が温室効果ガス排出に及ぼす影響

熱帯泥炭は、マングローブによる沿岸域の土砂補足により約7000年前から発達し、東南アジア、とくにインドネシア、マレーシアに多く分布する。北方泥炭と異なり、熱帯泥炭は森林により形成されるため木質であり10mを超える厚さをもつところもある。その面積は泥炭地全体の3%であるが、炭素含有量は20%を占めている。一見平坦に見えるがドーム状であり、ドーム内に多量の水を涵養している。しかし、ドーム頂部を含めた近年の開発により多くの地域で著しい地盤沈下が起こり雨季には洪水が、乾季には水不足が生じ、乾燥した泥炭地で火災が頻発し、多量の温室効果ガスの発生源となっており、その改善は国際的な問題である。自然林、プランテーション、農地、荒地における温室効果ガス排出のメカニズムとその収支を得ることが本研究の目的である。

主な研究テーマ

  • 非特定汚染源の窒素負荷の制御因子
  • 流域レベルの温室効果ガス収支の評価
  • 温室効果ガス排出における堆肥施用の効果
  • 熱帯泥炭地の土地利用変化が温室効果ガス排出に及ぼす影響

 土壌学研究室ではフィールドモニタリングに基づく研究を基本とし、対象とするフィールド毎にチーム体制で調査を実施して教員・先輩から後輩へとモニタリング手法や分析・解析のノウハウを伝授している。
 毎年4月に研究計画検討会を開催し、これまでの成果をふまえた当年度研究計画の立案と検討を行っている。さらに、土壌断面調査を年2回(春・秋)実施し、北海道内の様々な気候・地質・圃場管理に基づいて形成された土壌の特徴について検討を行っている。また、研究室では2種類のゼミをおこなっている。1つは英語原著論文紹介で、学部生も含め全員が毎週2名ずつ前期と後期に研究テーマに関連した論文の紹介を行う。もう1つは院生以上の研究発表で主に後期に週1回行う。いずれも、30分で発表し30分質疑応答をする形式をとる。8月と12月には当該年度の中間発表会を行う。
 卒業論文と修士論文の初稿提出締切はそれぞれ1月中旬と12月末とし、その後は教員による修正・改訂により論文を完成させる。
 研究成果は、日本土壌肥料学会年次大会(9月)あるいは日本土壌肥料学会北海道支部会(12月)のほか土壌物理学会大会等の土壌学関連学会での学会発表を行う。また、特に修士課程以上の学生を対象としてESAFS(The East and Southeast Federation of Soil Science Societies)やWCSS(World Congress of Soil Science)等の国際学会での発表も積極的に行っている。さらに、研究成果は日本土壌肥料学雑誌(邦文誌)やSoil Science and Plant Nutriton誌(英文誌)等の学術誌に投稿するなど、研究成果の第三者からの評価と一般への公開(共有)を研究室の基本方針としている。
 年間を通したフィールドモニタリングや土壌断面調査、研究計画検討会や学会発表等の活動では熱い議論が交わされ、また研究室での交流(食事会や忘年会、イベント打ち上げ等)も多く行われている。それらはメンバー間の絆の強化によって難儀なフィールド研究を完遂する一助となっていることに加え、分野の異なるテーマ間の情報交換による知識のブレークスルーにも大きく役立っている。



研究員

  • 波多野 隆介(北海道大学名誉教授)
  • 佐々木 章晴(岩見沢農業高校教員)
  • 彭 石磊(PENG, Shilei 中国)

所属学生

博士課程

  • 三原 州人(1年)
    研究テーマ: SWATを用いた寒冷畑作流域の水、土砂、栄養元素動態に対する気候変動の時空間的影響評価

修士課程

  • 北村 凌佑(2年)
    研究テーマ:異なる3種の有機質肥料が黒ボク土壌管理採草地の温室効果ガス排出に与える影響
  • 杜 靖(2年)(DU, Jing 中国)
    研究テーマ:Effect of different types of organic fertilizer on carbon budget in a managed grassland
  • 浪江 日和(2年)
    研究テーマ:無肥料・無農薬水田における除草作業がCH4主要排出経路に与える影響
  • 趙 双双(2年)(ZHAO Shuangshuang 中国)
    研究テーマ:無肥料無農薬水田における多数回中耕除草が温室効果ガス排出に与える影響
  • 島田 かさね(1年)
    研究テーマ:無肥料無農薬水田における多数回中耕除草が温室効果ガス排出に与える影響
  • Subedi Bishal(1年)(ネパール)
    研究テーマ:
  • 張 子捷(1年)(ZHANG Zijie 中国)
    研究テーマ:Influencing greenhouse gas emissions by changing soil organic carbon content, acting on methanogenic and oxidizing bacteria, and soil C/N.

学士課程

  • 安黒 守敬(4年)
    研究テーマ:SWATモデルを用いた十勝川水系の冬期窒素動態予測及び修正モデルの適用可能性
  • 井上 拓海(4年)
    研究テーマ:非黒ボク土壌における三種の有機質肥料連用が与える温室効果ガス排出への影響
  • 前田 慧(4年)
    研究テーマ:放牧地における家畜排せつ物の炭素貯留および温室効果ガス排出への影響
  • 阿部 しえり(3年)
    研究テーマ:
  • 岸川 大輝(3年)
    研究テーマ:
  • 喜島 仰太(3年)
    研究テーマ:

研究生

  • 陳奎元(中国)
    研究テーマ:Quantitatively evaluating the effect of agricultural straw composting on greenhouse emission reduction.


住所

〒060-8589 札幌市北区北9条西9丁目 北海道大学大学院農学研究院土壌学研究室

電話・FAX番号

Tel:011-706-3857
Fax:011-706-2494

研究室サイト

https://www.agr.hokudai.ac.jp/env/soilscience/

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