Hokkaido UniversityThe Sonoyama Lab
北海道大学大学院生命科学院消化管生理学研究室
北海道大学農学部生物機能化学科食品機能化学講座(園山グループ)


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腸 内細菌叢と腸管粘膜免疫の関係の解析 および食餌によるその制御を介したアレルギーの予防・改善
 
過去の多くの研究により、腸内細菌叢は宿主の生理機能とりわけ免疫系の発達ならびに恒常性維持に大きな影響を及ぼしていることが理解され るようになってきました。このことは、腸内細菌叢が免疫系制御の破綻に起因するような疾患(たとえばアレルギー)の予防・治療の標的のひとつとなりうるこ とを意味します。実際これまでに、健康な人とアレルギー患者とでは腸内細菌叢の構成が異なることが示され、また特定の乳酸菌株を投与することによってアレ ルギーを予防・治療することが試みられてきています。私たちの研究室では、食品によって腸内細菌叢を修飾し、それによってアレルギーを予防できるのではな いかと考え、実験動物を用いた検討をしてきました。具体的なテーマは以下のようなものです。

難消化性オリゴ糖による腸内細菌叢の修飾とアレルギーの予防
 オリゴ糖は、D-グルコース、D-フラクトース、D-ガラクトースなどの単糖類がグリコシド結合により2〜10量体を形成した化合物で、天然には穀物・ 野菜・果物などに含まれます。オリゴ糖のうち上部消化管において消化・吸収されることなしに大腸に到達するものを難消化性オリゴ糖と呼んでいます。難消化 性オリゴ糖は大腸において腸内細菌により資化され、選択的にビフィズス菌(bifidobacteria)の増殖を促進するので、「宿主の健康に有用な腸 内細菌を選択的に増殖・活性化させる難消化性食品」と定義されるプレバイオティクスの 代表的なものです。我が国では、bifidobacteriaを増やして腸内環境を良好に維持する作用を期待できるものとして、イソマルトオリゴ糖、ガラ クトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖(スタキオースおよびラフィノースを含む)、乳果オリゴ糖(ラクトスクロース)、フラクトオリゴ糖およびラ フィノースが特定保健用食品の許可を受けています(2008年4月現在)。
 腸内フローラと免疫系の発達ならびにアレルギー発症との関連についての知見が蓄積されるのにともない、lactobacilliや bifidobacteriaを投与することによるアレルギー予防・改善の試みが行われるようになりました。いわゆるプロバイオティクスです。これらの細菌群はもともと腸内に常在するものであり、 難消化性オリゴ糖はこれらの増殖を促進するので、理論的には難消化性オリゴ糖にもアレルギーの予防・改善が期待できるはずです。難消化性オリゴ糖は、限ら れた菌種を投与するプロバイオティクスに比べ、よりグローバルに腸内フローラを改変することが期待できますが、このもののアレルギー予防・治療効果に関す るヒトに対する試験は現在までに数えるほどしか行われていません。
 私たちは、卵白アルブミン(OVA)をモデル抗原とし、Brown Norwayラットを用いて典型的な即時型アレルギーである気道炎症を惹起して、ラフィノースの混餌投与が及ぼす影響を調べました(Watanabe et al. 2004 Br J Nutr)。その結果、ラ フィノースは炎症局所への細胞浸潤を有意に減少させました。同様な効果は、α-結合ガラクトオリゴ糖でも観察されました(Sonoyama et al. 2005 J Nutr)。
 また、C57BL/6マウスの耳介にジニトロフルオロベンゼン(DNFB)を塗布して遅延型アレルギーである接触過敏症を惹起するモデルを用い、フラク トオリゴ糖(FOS)の混餌投与の効果を検討したところ、耳介の肥厚が抑制されることがわかりました(Watanabe et al. 2008 Br J Nutr)。このときの腸 内細菌叢を16S rRNA遺伝子配列に基づいて解析したところ、Bifidobacterium pseudolongumが増加していることがわかったので、マウスの腸内容物からこの菌種を分離し、マウスに経口投与しました。その結 果、DNFBによる接触過敏症を一部抑制することが示され、FOSによる接触過敏症の抑制にはB. pseudolongumの増加が関与することが示唆されました(Sasajima et al. 2010 Br J Nutr)。
 腸内細菌叢はとりわけ発育初期の免疫系に影響をおよぼします。私たちは、発育初期の腸内フローラを改変することにより成長後のアレルギー疾患発症が影響 を受けるか否かについて、次のように検討しました。FOS添加飼料で妊娠・授乳期のBALB/cマウスを飼育し、それらのマウスから生まれた仔マウスの離 乳前(出生日、7、14および21日齢)における腸内細菌叢を調べたところ、母マウスのFOS摂取の影響を受けることがわかりました(Fujiwara et al. 2008 Br J Nutr)。そこでこれ を、発育後にアトピー性皮膚炎を自然発症するNC/Ngaマウスに適用しました。すなわち、妊娠・授乳期のNC/NgaマウスをFOS添加飼料あるいは無 添加飼料のいずれかで飼育し、それらの母マウスから生まれた仔マウスを21日齢で離乳させ、FOS添加飼料あるいは無添加飼料のいずれかで飼育しました。 その結果、母マウスの飼料および離乳後の飼料をFOS無添加飼料とした仔マウスにおいて、発育後に発症する皮膚炎の臨床スコアは最も高く、母マウスを FOS添加飼料で飼育した仔マウスにおいては離乳後のFOS摂取の有無にかかわらず皮膚炎スコアが有意に低いものでした。FOS無添加飼料を摂取した母マ ウスをもち、離乳後にFOS添加飼料を摂取した仔マウスの皮膚炎スコアはそれらの中間でした。これらの結果は、FOSによって発育初期(乳児期)における 腸内細菌叢を修飾することにより、発育後の皮膚炎発症を予防することができること、発育後(この実験では離乳後)にFOSを摂取して皮膚炎発症を予防する ことはより難しいことを示唆しています(Fujiwara et al. 2010 Br J Nutr)。
 以上のように、動物モデルを用いて難消化性オリゴ糖がアレルギー疾患の発症を予防できることを示してきましたが、現在はこれらのモデルを用いて細胞・分 子レベルでの作用機序の解析を進めています。
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北海道産米「ゆきひかり」のアレルギー改善機構
 「ゆきひかり」は北海道で栽培されている米品種のひとつで、これを米アレルギー患者に摂取させるとアトピー性皮膚炎などのアレルギー症状の改善がみられ ることが報告されています(柳原哲司:北海道米の食味向上と用途別品質の高度化に関する研究,北海道立中央農業試験場報告 2002)。ところが、アレルゲンタンパクの含量および患者抗体との結合活性に関して他品種と差は見られず、ゆきひかりによるアレルギー改善機構はまった く明らかになっていませんでした。
 私たちは、米品種が腸内細菌叢に影響を及ぼす可能性に着目し、「ゆきひかりは、腸内細菌叢の修飾を介して免疫応答を修飾する結果、アレルギー改善作用を 発揮する」という仮説を立てました。実際、マウスにゆきひかりを含む4品種の米を主成分とする飼料のいずれかを3週間摂取させた後の腸内細菌叢を解析した 結果、摂取する米の品種が腸内細菌叢の構成に変化を与える場合があることが示されました。とりわけ、腸粘液の主成分であるムチンを分解するAkkermansia muciniphilaという細菌がゆきひかり摂取 群では少ないという結果が得られました(Sonoyama et al. 2010 Br J Nutr)。また、OVA で免疫したマウスにOVAを経口投与することにより惹起するアレルギー性下痢症モデルを用いて米の品種が及ぼす影響を調べた結果、統計的有意差は認められ ないものの、ゆきひかり群で他の3群に比較して下痢発症個体の割合が低く推移しました(Sonoyama et al. 2010 Br J Nutr)。これらの結果 から、ゆきひかりを摂取することによりムチン分解菌であるA. muciniphilaが減少する結果、腸の粘液バリアが健常に維持され、食物アレルゲンが取り込まれにくくなるのではないか、と考えまし た。もしかしたらゆきひかりはアレルギーを改善するプレバイオティク米なのかもしれません。現在はこれらのことをさらに確かめるとともに、ムチン分解菌の 数が変化するメカニズムを追究しています。