ヒガンバナの紹介

H12.9.23

この原稿は、巾着田オフでくばられたものを掲載したものです




 白露を過ぎ涼風が意識されるようになると、人里近くで咲きだすのが『彼岸花』で すね。遠くからでも良く目立つ真っ赤な花、仲秋を代表する花でしょうか・・・

 この彼岸花、原色系の強い色が影響してか、昔の和歌や絵画に使われることはあり ませんでした。逆に、生け花や茶花等では使ってはいけないそうでした。  別名シビトバナ、ユーレイバナ等、どちらかと云えば、日本人には嫌われていた花 だったんですね。ところが、西洋人にはたいへん好まれたようで、マジックリリーや レッドスパイダーリリーと呼ばれ、珍重されてきました。

 彼岸花は本当に嫌われていたのでしょうか? 日本の植物の中では、最も別名の多 いのが、この彼岸花です。文字のちょっとした変化も含めれば、1090の呼び名が あり、イタドリの540を抜いてダントツの第一位です。
 そこで、呼び名の一例を見てみましょう。

●ヒガンバナの呼び名
秋の彼岸に咲くことからの呼び名 ヒガングサ・ヒガンバラ・ヒガンユリ・ヒガンソウ・ヒガンポ・彼岸花
花が一斉に咲くことからの呼び名 イチジバナ・イットキバナ・ソロイバナ・イッショバナ
花の色からの呼び名 アカノハナ・アカバナ・カジバナ・ヘイケバナ(平家一門の旗の色)
マンジュシャゲ(曼珠沙華:仏典梵語で云う、美しい赤花のこと)
花の形からの呼び名 オミコシバナ・カミナリバナ・テンガイバナ・ハナビバナ
花と葉が別々であることからの呼び名 ハッカケクサ・ハッカケバナ・ハヌケグサ・ハミズハナミズ(葉見ず花見ず)
おそなえ花としての呼び名 ホトケグサ・ホトケサンバナ・ホトケバナ・オボンバナ・ホトケノザ
子供の遊び方からの呼び名 イカリバナ・オリカケバナ・カンザシバナ・ジュズバナ・ローソクバナ
お墓の周りに咲くことからの呼び名 ソウシキバナ・ソウレンバナ・オバケバナ・ハカバナ・シビトグサ
しびれや、かぶれることからの呼び名 シビレ・シビリ・シビレバナ・カブレ・カブレバナ・カブレンショー
※ 巾着田では、かぶれたりしませんから、ご安心を・・・・
球根に毒があることからの呼び名 ドクバナ・ドクユリ・ドクショーバナ・ドクホージ・ドクズミラ・イットキゴロシ
薬草として使われることからの呼び名 クスリグサ・ムクミトリ・ワスレクサ・ミカンバナ(紀州みかんの防腐剤)
もちや団子の材料としての呼び名 オイモチ・シロイモチ・ケナシイモ・ミズコ・チカラコ(力粉)


 ここに書いたのは、ほんの一例ですが、長い間身近の里山に存在していたからこそ 、これだけの名前ができたんでしょうね・・・



●ヒガンバナの渡来説
 さて、彼岸花は中国揚子江付近が原産地なのですが、いつ頃日本にわたってきたの でしょうか? これには4つの渡来説があります。

(1) 自然分布説
 今から200万年前は、日本列島とユーラシア大陸は陸続きでした。球根の分球で 増える彼岸花ですが、徐々に生息範囲を東進してゆけば、十分日本列島にたどりつき ます。(論証の難点は、化石が見つかっていないことでしょうか)
(2)海流漂着説
 はまおもと(クリナム)や日本水仙と同じように、海流に乗ってぷかぷかとやって きたという説です。有史来無人の孤島に、彼岸花がみられることから有力な説ですが 、球根が塩に弱いと云うのが、論証の難点です。
(3)人為分布説(史前帰化植物説)
 彼岸花の分布は西日本中心で、自生北限は秋田県・山形県・岩手県ですが、山の中 には見られず、主に人間の生活領域に分布しています。
 これを『人里植物』と云い、何らかの目的のために、人間の手によって運搬されて 植えられたことを示しています。
 秋明菊のように鑑賞用に植えられたのでしょうか? しかし、鑑賞され愛でられた と云う記録は、万葉集までさかのぼっても残っていません。
 おそらく、稲作農耕の始まる前の縄文時代に『でんぷん』を得るために、大陸から 持ち込まれたのではないか?と云うのが、この説です。
(4) 人為分布説(救荒〜薬草渡来説)
 彼岸花が古典に登場するのが室町時代以降であり、それ以前の典籍には全く見られ ないことが、この説の根拠となっています。
 鎌倉時代に飢饉対策として中国から持ち込まれ、農耕地帯を中心に広がったことと 、曼珠沙華と呼ばれるように、寺院での布教により広がっていたと推定されています 。
 また、薬草としての効果も期待されていたのではないか、と考えられています。  飢饉の時の救荒植物、でんぷん源としての彼岸花、初めて聞かれた方も多いんじゃ ないかしらん?
 江戸時代にサツマイモが導入されて、彼岸花はその食料としての役目を終えてしま ったために、今では食べ物って云う感覚はありません。
 しかし、日本古来の栽培植物は、セリ・ミツバ・大根・ごぼう・ウドと云ったよう に、余りでんぷんを含んでいません。主なでんぷん源は、お米しか無かった訳です。

 そのお米が取れない年には、彼岸花を掘り上げて非常食としたことが、言い伝え等 で知られています。


●ヒガンバナの毒
 食用目的での導入説もあると紹介しましたが、名前にもあったように 彼岸花は有毒植物です。球根にはアルカロイドと呼ばれる神経毒 (リコリン・セキサニン・ホモリコリン)が含まれており、そのまま食べ ると呼吸困難でイチコロです。
 ところがこの毒は、水に溶けますので、よ〜く水に晒すと良質のでんぷんが得られ る訳なんですね。 古代から、苦いどんぐりや山芋のあくぬきには、流水を利用して きたことから、抵抗なく食物として利用できたんだと思います。  また、毒を利用して壁土に混ぜて防虫したり、田圃の土手に植えてネズミやもぐら を防いだりしていたことも知られています。

 この、アルカロイドは飲用すれば有害ですが、外用等で使えば薬草になります。  すりつぶした球根を足の土践まずに貼ると、浮腫(むくみ)や肩こりに効果がある そうです。(リコリンは現代医学でも試用されています)
 江戸時代の農民には、非常食料でもあり薬でもあり、現在のアロエみたいな大切な 植物であったようですね。



●園芸植物としてのヒガンバナ

 お墓のそばに植えられ、不吉な花と嫌われたのは、食べ物としての役割が終わった ことと、鮮血のような濃赤の花色のせいなのでしょうが、現代では、日本に自生する 貴重なヒガンバナ科ヒガンバナ属の園芸植物として見直されています。

(写真は リコリス・ヘイジャックス)


 ヒガンバナ科直系?の由緒正しき『彼岸花』、次は園芸植物としての視点で、この 花とその仲間達を見てみましょう。
 ちょっぴり難しいお話もありますが、おつきあい下さいませ・・・

 ヒガンバナ科ヒガンバナ属、西洋の植物学者の付けたラテンネームは、リコーリス (Lycoris)と云います。命名は諸説がありますが、ギリシャ神話にでてくる 海の女神リュコリスの名前から取った、美しい名前のようです。  同じくヒガンバナは、ラディアータ(Lycoris radiata var.radiata)と云うラテ ンネームを持っています。

 原産地は中国で、種のできるコヒガンバナ(L.radiata var.pumila)と一緒に自生 しています。このコヒガンバナの変異で、種の付かないヒガンバナが中国で生まれて 日本に渡来したと考えられています。
 ヒガンバナには種ができません。これは3倍体と呼ばれ、生殖細胞の染色体の数が 合わないため正常な受精ができないためです。いわば、自然の種なし西瓜ですね。  ですから、増殖はもっぱら分球によります。

 成長のパターンは、秋に開花した後に、すぐに葉がでて冬を迎えます。周りの野草 が枯れている時期にたっぷりと光合成をして、球根(鱗茎)にでんぷんを蓄えます。
 晩春、周りの野草の成長に伴って葉が枯れてしまい、夏いっぱいを休眠して過ごし ます。秋、涼しくなると花茎だけを伸ばして開花します。  下の図は、ヒガンバナの開花前線です。ちょうどサクラ前線と逆ですね。


(クリックすると大きな図になります)




●ヒガンバナのルーツ
 ヒガンバナ科は約60の属から構成されています。いったいヒガンバナ属はどこか ら来たのでしょうか?

ここにおもしろい資料があります。遺伝子の塩基配列からヒガンバナのルーツを探 ろうという試みです。これによれば、大本は南アフリカの原ヒガンバナ科で、大陸が 動いていくことによって、分散していったことが判ります。
ヒガンバナ属は、この中ではアジア圏に属しており、ウンゲルニア属(Ungernia) と親戚関係にあり、アジアでは数少ないヒガンバナ科の植物群です。

 ヒガンバナは、人間と同じようにアフリカ大陸がルーツなんですね・・・


(クリックすると大きな図になります)




●ヒガンバナの品種
 ヒガンバナ属は、変種も含め約30種の集まりからなります。中国、台湾、朝鮮半 島、日本(除:青森県以北)に分布し、自生南限はビルマです。
 日本には、ヒガンバナの他に、キツネノカミソリ(L.sanguinea var.sanguinea) と云う早咲きのオレンジ色の仲間が自生しています。また、九州南部にはショウキラ ン(L.traubii)と呼ばれる、遅咲きの黄色の仲間が見られます。
ヒガンバナとショウキランの雑種である、シロバナヒガンバナ(L.albiflora)も 、まれにですが見られます。巾着田にも自生しています。(探してみて下さい)

巾着田のヒガンバナ(左:白がシロバナヒガンバナ 右:赤がラディアータ)


 代表的な園芸用の原種を、表にまとめてみました。(いずれも入手可能です)

原種和名・園芸品種名 学名(ラテンネーム) 開花期と花色 出葉期 増殖方法 耐寒性
ヒガンバナ
マンジュシャゲ
ラディアータ・ラディアータ
L. radiata var. radiata Herb
赤・9月 晩秋 分球
シロバナヒガンバナ アルビフロラ
L. albiflora Koidz
白・9月 晩秋 分球
ホウディシェリー ホウディシェリー
L. houdyshelii Traub
白・8〜9月 晩秋 分球
※ショウキラン
オーレア
トラウビー
L. traubii Traub
黄・9〜10月 晩秋 種・分球
※ショウキラン
オーレア
アウレア
L. aurea Herb
黄・9〜10月 晩秋 種・分球
アケボノショウキラン
オオスミ・ベニサツマ
ルブロアウランティアカ
L. rubroaurantiaca Komatu
黄橙・9月 晩秋 分球
スペリー スペリー(園芸品種)
L. cv. sperry
黄・8月 早春 種・分球
インカルナータ
タヌキノカミソリ
インカルナタ
L. incarnata Comas ex K.Spreng
白桃・8〜9月 早春 分球
スプレンゲリー
ムラサキキツネノカミソリ
スプレンゲリ
L. sprengeri Comes ex Bak
紫桃・8月 早春 種・分球
ナツズイセン スクアミゲラ
L. squamigera Maxim
桃・8月 早春 種・分球
キツネノカミソリ サングイネア・サングイネア
L. sanguinea var. sanguinea Maxim
橙・8月 早春 種・分球
オオキツネノカミソリ サングイネア・キウシアナ
L. sanguinea var. kiushiana Makino
橙・7〜8月 早春 種・分球


※日中共同の研究によって、従来アウレア(L.aurea)とされていた種が4種に分類さ れることになり、園芸名のショウキラン、オーレアは、アウレアではなくトラウビー であることが判りました。(新しい種の分類のため、今も混乱しています。)

中国産稔性種  アウレア・ラティフォリア    L.aurea var.latiforia
中国産稔性種  アウレア・アングスティテパラ L.aurea var.angustitepala
中国産不稔性種 アウレア・アウレア L.aurea var.aurea
日本・台湾・中国産稔性種 トラウビー L.traubii −−− ショウキラン、オーレア


リコリス・アウレア


●ヒガンバナの入手
通常育種会社では、葉の枯れた初夏に圃場から掘り上げて分球し、7月中旬ぐらい から小売りに出されています。
 日本国内に自生する百合と同じく、原種自体の花が美しかったために、品種改良が 進まなかったんですが、近年、オーレアやスペリー等の交配を中心として、とっても 美しい園芸品種が数多く出現しています。
 また、属間交配も可能なようで、南アフリカのブルンスビギア属とオーレアの交配 にも成功しているようです。(小森谷ナーセリーだったかしらん?)
 最近では通販品で珍しい原種や、前のページの表にでていないような園芸品種を手 に入れることも可能になっています。(やや高価ですが・・・)


●ヒガンバナの栽培
 入手してからの植え付けについては、ほとんど同じになります。温帯アジアの原産 なので、一般には地植えしますが、深鉢を用いて、水はけの良い用土で浅めに植える こともできます。
 冬の管理方法は、葉っぱの有る無しで違ってきます。秋出葉型は、少々霜に当てて も日当たりが優先になります。ただし、黄色系の品種は寒さに少し弱いんで、不織布 での防寒が必要でしょう。
 春出葉型は、たいへん寒さに強く、北海道でも地植えができるほどです。しかし、 球根が凍結すれば傷みますので、積雪のない所では盛り土したほうが良いようです。

 葉が枯れる初夏以降は休眠期間、ただし根っこは生きてますので、鉢植えには湿ら す程度の水やりが必要でしょう。(過湿は腐敗の原因になります)
早い品種で8月から開花しますが、大部分は9月中旬の開花となるでしょう。花茎 がけっこうなスピードで伸びてきますので、1日1回鉢を回して上げると、まっすぐ の見栄えの良い花茎になります。
ヒガンバナの開花の仕組みは、まだ良く判っていません。球根類としては開花率が 低いようで、大きい球根=開花球とは限らないそうです。
 自然状態では、ぎっちりと分球して盛り上がり、地上に露出した状態(浮上株)に なっても開花はしています。ですから、込み合ったぐらいが開花には都合の良い生理 なのかもしれませんね・・・・・


 ヒガンバナの大群生地、どうぞお楽しみ下さい〜〜  ではでは〜

( 担当:こやま@千葉)

 

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